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夏の六甲山 | 野草と作物

アサギマダラ

高山地帯に秋を告げる蝶、アサギマダラ。特徴的なフワフワとした飛び方で、杉林を舞っていました。
日本に住む蝶で唯一「渡り」を行う種で、気温が下がると本州から南へ南へと飛んでいきます。なんと遠く香港や台湾まで渡った個体も確認されています。
旅の途中、休憩地として山間部や、吸蜜するフジバカマ・ヒヨドリバナの群生地を訪れるのですが、渡りに関する詳しい生態は、未だ判明していません。
研究家の方々により個体マーキング調査が行われており、渡りの習性が示唆された1980年以降、毎年の南北移動ルートが記録されています。

ゴマ

ゴマすり、ごまかし、開けゴマ。誰もが一度は口にしたゴマ、その花はキツネノテブクロに似た可愛らしい袋状の形をしています。
ゴマは初めの栽培地インドから日本へと、仏教の伝来とともにやってきました。その後各地で栽培、利用され、その都度色々なお話が生まれたようです。
長崎県諫早市小長井には「ゴマと殿様」というゴマの栽培を禁ずる逸話が残っています。ゴマ栽培の禁忌は山形県大舟にも見られ、いずれのお話も、ゴマが目を突くから、というのが禁止の理由になっています。
確かにゴマの実はオクラのように上向きに付きますが、さほど尖った形はしていません。似た逸話は各地に残っていると思われますが、由来が気になるところです。

サトイモ

太陽に透かしたサトイモの葉。川のように枝分かれした葉脈が観察できます。
湿度の高い土を好むサトイモの原産地は、雨季のある東南アジア。長雨の7月を越えても、他の作物より頭一つ抜けた育ちぶりです。
生長の秘密はその葉にあり、大きく広がった葉は陽の光を集めやすい反面、その大きさゆえ雨粒が残りやすい弱点を持っています。サトイモの葉は水分をはじく超撥水という性質を備えることで、日光を邪魔する雨を上手にかわしているのです。
日本への伝播は米の渡来以前と推測されており、縄文時代の主食として栽培されていたようです。

セリ

谷の水路に群生するセリの花です。水気を好み、田畑の畔や道端でも目にすることができます。
春の七草でもおなじみ、早春の香り高く柔らかいセリは、古くから日本で愛されてきた食材です。
江戸時代には、秋植えの苗が伸びるに従って水を張り、柔らかな長い茎を作る栽培方法が取られていました。この方法は現在でも使われており、特に岩手県石巻市の河北セリが有名です。
野生のセリを採取する際は、よく似た有毒のドクゼリと間違えないよう注意が必要です。

センニンソウ

十字型の花が目につくセンニンソウです。
成熟した葉や茎の汁は皮膚につくと炎症を引き起こし、現在ではほとんど行われていませんが、葉の毒を利用して魚を獲っていた記録もあります。
ハコボレ、ウマクワズ、ウシノハコボレなどの別名があり、その毒性は古くから知られていたことが分かります。
一方で若葉に含まれる毒は少ないらしく、水に晒して炒め物や、酢漬けにして救荒食として食べられていたようです。

チシャ

萵苣(チシャ)です。ひよこ色の二重の花弁がキュートです。
チシャ、という名前は耳馴染みがないかもしれません。けれどサンチュレタスやグリーンレタスといえば、スーパーマーケットでも目にされたことがあるかと思います。
江戸時代末期に玉レタスがやってくる以前、国内で栽培されていたのはチシャでした。その歴史は意外に古く、奈良時代の文献にも登場しています。
チシャの由来は乳草、葉や茎から白い液が出ることから名付けられ、また、茎の下部から葉を掻き採って収穫していたため、掻きチシャとも呼ばれていました。

ツユクサ

ツユクサを横からクローズアップしてみました。夏草の中に浮かぶように咲く耳状の青い花弁と、ぴょこっと飛び出す黄色のおしべが好対照で、一度認識するとついつい目が向いてしまう花です。
栽培品種として大型化されたオオボウシバナは、京友禅の下絵を描く際に用いる青花紙の原料として、現在も滋賀県草津市でごく少数ですが栽培されています。
チャコのように最終的に水に溶ける性質を利用した青花紙ですが、かつて浮世絵の青絵具としても使用されていました。藍や青色顔料と異なり著しく退色してしまうため、当時の作品はすっかり色が抜けています。
ツユクサもオオボウシバナも、早朝に咲いた花は昼過ぎにはしぼんでしまいます。その色を受け継いだ青花紙もかくや、ということなのでしょうか。

花ミョウガ

生で食さば志を削ぎ智を損なう…。孔子先生も忌んだ魅惑の食材、花ミョウガです。
昔話の「みょうがのお宿」や落語「茗荷宿」も、ミョウガ料理のフルコースを食べた旅人が、財布(そして宿代)を忘れて行ってしまうお話です。
このミョウガ物忘れ説の由来は諸説ありますが、おかまいなしに食べられてきているのは、やはりその美味しさゆえでしょうか。
花ミョウガの名のとおり、地面から顔を出した花芽を摘み取って収穫されます。花を食べて恍惚とする、と書くと、どこか幻想的な植物にも思えてきます。

ヤブラン

昨年に野うさぎ達に葉を食べられてしまったヤブランですが、きれいな青紫の花を咲かせてくれました。
訪花しているのはトラマルハナバチでしょうか。後ろ足にたっぷり花粉が貯められています。長い舌をペロペロ伸ばし、ヤブランの間を飛び交いながら、蜜を集めて回っていました。
ミツバチと比べると体も大きく、怖がられがちな彼らですが、植物のポリネーション(花粉交配)に一役買ってくれている大切な存在です。
しかしながら個体数は年々減少しており、京都府では準絶滅危惧種としてレッドデータブックに登録されています。

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