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春の六甲山 | 野草と作物

アオキ

斑入りアオキの花。シックな赤紫の花弁の中央には、鮮緑色のめしべが観察できます。
キブシと同じく、アオキもまた雌花と雄花が別株に咲く木。雄花には黄色いおしべが四つ点々と並ぶため、雌雄の見分けは簡単です。
木陰でも力強く茂り、冬季にはコーヒーの実のような楕円形の真っ赤な実が生ります。また冬の寒さにも負けず青々とした葉をつける姿は、アオキの名を強く印象付けます。
斑入りアオキはアオキの園芸品種で、六甲山では保養地跡などに野生化した株が見られます。

アスパラガス

1月の終わりに植えたアスパラガスが顔を出しました。摘んでそのまま食べると驚くほど甘く、力強さすら感じるほどです。
原産地はユーラシア南西部の草原地帯、特にヨーロッパでは大変愛されている作物です。土寄せを行い日光を遮ることで白化したホワイトアスパラを、早春の味覚として茹で・焼き・そのままと、様々な調理法で楽しんでいるようです。
日本へ初めて伝来したのは江戸時代。当時は鑑賞用の栽培が主でしたが、時代が下って明治期に入ると輸出用のホワイトアスパラ缶詰製造が普及し、国内消費向けに栽培が容易なグリーンアスパラが一般化していったようです。
アスパラガスの白化の起源には諸説あり、およそ500年前のイタリアで飢饉が起きた際、収穫時期に先立って掘り出したことで偶然発見された、というのが最も有名な説です。

アセビ

六甲山春の先駆け、アセビの花です。麓では2月の終わりごろから咲き始め、山頂では4月いっぱいまで花を付けます。
山のつま先から頭のてっぺんまで満遍なく分布していることも含めて、春季の花としてよく名前が挙がる種です。
スズランに似た白い花が目を楽しませてくれる本種ですが、ほぼ全草に毒があります。アセビの名にも「馬酔木」の字が当てられ、馬が食べると毒にやられて酔ったようにふらつく、という逸話が残っています。
野鹿も食べるのを避けるようで、しばしば他の樹木が育つ余地がないほど繁茂し、鬱蒼とした環境を作り出します。アセビが茂った林の地表にはクマザサが広がり、いっそう寡占的な植生になってしまいます。そのような林に多様性を呼び戻す際は、適度にアセビの剪定を行い、林床に光が届く環境を作り出すことが必要になります。

イカリソウ

イロハモミジの下生えの中に見慣れない形の花が咲いていました。図鑑に当たってみると、どうやらイカリソウの仲間のようです。
名前が分かれば、なるほど、という感じで、突出した4片の花は船の四爪錨にそっくりです。北陸や山陰地方に広く分布している一方で、六甲山では非常に数が少ないらしく、ラッキーな発見でした。さらに調べてみると、中国では古くから血行促進や発汗を促す強壮用の薬草としてよく知られており、日本で市販されている薬用酒にも使用されているようです。
また、本種は江戸初期に著された「草本写生」という博物図譜絵巻の中にも、「三枝九葉草」の名で紹介されています。ちなみに、この絵巻の作者である「狩野重賢」の経歴は現在でも明らかになっていません。記載されている植物の多くが美濃の加納を発見地としていることから、同地の関係者であることが推察される、程度の謎の人物であり、その優れた観察眼と技巧に裏打ちされた美しいスケッチ群が収録されているにも関わらず、本書もあまり知られていないようです。

イロハモミジ

風あそぶ庭のイロハモミジ。秋の色づいた葉が、風景の中で独立する硬質な雰囲気のものであるとしたら、春の若葉は光と風をその身に取り込んでしまうような、まだ混沌とした命が持つ貪欲さを秘めている気がします。
オオシマザクラと肩を並べるようにして立つ大きな樹体は、夏は木陰を作り出し、冬は冷たい季節風を受け止めてくれる存在でもあります。
葉と同時に咲く花はその色を保ったまま形を変え、春が終わる頃に特徴的なプロペラ型の実となります。秋ごろ完全に熟すと、くるくると回転しながら風に舞い、遠く離れた地へと旅立ってゆきます。

ウグイスカグラ

枝先から垂れ下がるウグイスカグラの花。初夏になるとルビーレッドのうす甘い実をつけます。
ピンクがかった明るい赤色の花は、春に訪花するハチ達の大好物。ラッパ型の花弁に頭をつっこみ、せっせと蜜を集めている姿がよく見られます。鶯神楽という風流な名前の由来にも、花蜜を吸う鶯が舞い飛ぶ様子からつけられた、なんて幻視的な説があったりと、花の人気ぶりがうかがえます。
六甲山では同属のヤマウグイスカグラとともにアカマツ林などでよく見つかります。ヤマウグイスカグラは葉や花に細かな毛が生えており、見分けるポイントになります。

オオイヌノフグリ

朝の光を受けて開く、オオイヌノフグリの花。
その名前と鮮烈な色彩でよく知られている本種ですが、満開の姿を観察できる時間帯は意外と限られています。ブルーの花は日が傾き始めるやいなやつぼみはじめ、夕方に差し掛かる頃にはすっかり身を隠していることもしばしばで、日光に対する反応の素早さは清々しくもあります。
また、本種は咲いたその日に散ってしまう「一日花」としても有名です。しかしながら、上に書いたような日没を前につぼまる習性や、実際に観察すると同株の花が翌日に開花していたことをふまえると、この「オオイヌノフグリ一日花説」には、なにか別の由来があるように思えます。
本種の花弁は非常に落ちやすく、特に受粉後はかなりの割合で落花してしまいます。そうした花の性質が先の習性と合わさり、1日限りの青い花、というイメージが形作られたのかもしれません。

オオシマザクラ

六甲山全体に広く分布する野生種のサクラ。DOKIでもスギやコナラ木立の中にいくつか見られ、そのほとんどがヤマザクラという種です。
写真のサクラもヤマザクラと見做されていたのですが、専門家の方に見ていただいた結果、オオシマザクラである見込みが出て来ました。
10m以上の樹高を持ち、DOKIが建てられる以前からあったという話ですので、なかなか年経た樹であるようです。
オオシマザクラもまた野生種ではありますが、原産地は伊豆諸島。伊豆半島や房総半島を皮切りに各地へ植栽されたのち、野生化したサクラです。生長が早く、建材や用材、薪として使われたほか、葉っぱは塩漬けにされて桜餅になったりと、人の生活と深いかかわりを持つ種のようです。

カキドオシ

カキドオシを見つけました。まだら模様と細かな毛が特徴の、きれいな紫色の花です。
キランソウと同じく本種も薬草として古くから利用されていて、生薬へ加工したものは疳取草、連銭草などの名が付けられています。前者は子供の「かんのむし」を取ることから、後者の名前は円い葉が連なる形態による名付けですが、特に各器官の結石や糖尿病への予防に使用されてきたようです。
本種は薬の他にも、茶外茶としてよく飲まれています。薬効の豊富さから味の強さを想像してしまいますが、案外飲みやすいらしく愛飲されている方も多いとか。その風味は和製ハーブといった趣で、なかにはラベンダーやカモミールにたとえる人もいるようです。
花を含めて全草が食べられることを活かして、花期の色と香りを楽しむ天ぷら料理にされる方もいるようで、なかなかの愛されぶりです。お茶として加工されたものは市販されているので、お試ししてみてはいかがでしょうか。

カブ

カブの花摘み。おひたしやお味噌汁、変わり種としてはボンゴレスパゲッティに加えても美味しく食べられます。
まぶしいほどに鮮やかな黄色の花は、アブラナの花にそっくりです。いわゆる「菜の花」の一種で、アブラナの仲間でハクサイ、キャベツ、カブなどの食用できる花は総称して菜の花と呼ばれています。
カブは瘦せた土地でも容易に育つことから、紀元前から世界中で広く栽培されてきました。日本でも弥生時代に持ち込まれて以来、普段の食材から凶作の救荒食まで、様々な場面で登場しています。

キブシ

舞子さんの花かんざしのように垂れ下がるキブシの花。
キブシは雌花と雄花が別々の個体に咲く雌雄異株(しゆういしゅ)の木で、手前に写っている三本がおばな、奥に見える短い花がめばなです。
雌花が受粉すると、ミニチュアサイズのブドウのような緑色の実が生ります。この実は染め材、特にお歯黒の「ふし粉」として、里山から採れる身近な材料として利用されていました。ふし粉に併せて鉄漿水(かねみず)と呼ばれる酢酸第一鉄の水溶液を用いて定着度を増していたことから、お歯黒は人体に施す鉄媒染染色、とも言えるのかもしれません。

キランソウ

ギャラリー前の芝生に咲いたキランソウ。葉が地を這うように伸び、全体が円形にまとまって生える姿から、ジゴクノカマノフタというちょっと物々しい別名があります。
キランソウという名前の由来としては、産毛の生えた光沢のある葉を豪奢な織物のきれに喩えた金襴草説、花の色を表した紫藍(しらん)という語が訛った説があり、いずれの名も形態の観察から来ていることが分かります。
また本種は民間薬として咳止めや解熱に利用されてきたことから、イシャイラズ、あるいは弘法草と呼んでいる地域もあり、こちらは効能に着目した名づけのようです。
何面相もの名を持つキランソウ。数々の呼び名は、本種が人の生活と幾度となく関わってきた跡であるとともに、折に触れて頼られてきたその薬効の高さを示すものでもあるようです。

クリスマスローズ

立派に咲いたクリスマスローズ。花をご紹介するのは今回が初でしょうか。一部の株は実を結びはじめていました。

立派に咲いたクリスマスローズ。花をご紹介するのは今回が初でしょうか。一部の株は実を結びはじめていました。
花のサイズや色、模様などによって命名された様々な園芸種が存在します。生息地ごとに分類された原種もあり、さらにはそれらを掛け合わせた交配種が生み出されており、かなり奥深い世界があるようです。
爬虫類などのペットブリーディングでは、累代交配によって固定化された形質的特徴を指す「モルフ」という用語があります。愛好家の方々により新たに生み出される百花繚乱のクリスマスローズたちも、モルフにあたる存在であるように思えるのですが、特に総括して呼ぶ語はないようです。

クロモジ

まだ若い枝先に咲く、クロモジの花。幾重にもかさなる淡いレモンイエローの花弁は、様々な形で愛されているその香りにぴったりの姿と言えます。
近ごろ和製アロマオイルとして再注目されているクロモジ精油のルーツは、明治期まで遡ることができるようです。「ものと人間の文化史159 香料植物」(吉武利文氏著)には、三重県伊豆市に暮らす精油家さんへの取材を通じて、同地に三代続く蒸留の歴史が記されています。詳細な蒸留法の記述からは、目方で見て原材料のおよそ1/300しか採れないという貴重なエッセンスを求め続けた、熱意と工夫が伝わってくるかのようです。のちの伊豆半島には輸出用クロモジオイルの産地が数多く生まれましたが、合成香料が台頭していくにつれ、同地の搾油施設は次第に姿を消してしまいました。
クロモジは変種を含めると、北海道から九州まで南北の幅広い地域に生息できる種です。近年では日本各地でクロモジオイルの製品化が進みつつあり、身近にあの素敵な香りを楽しめる未来がやってくるのかもしれません。

ジューンベリー

冬の寒さを乗り越え、みごと花を咲かせたジューンベリー。ちなみに冬季の間は他の幼木と寄せ植えしたうえで、籠撒きをして過ごしてもらっていました。
名前が示すように、ブルーベリーに似た赤い実が6月に熟します。まだまだ若い木ですので、生った姿をご紹介できるのは少し先の話になるかもしれません。
オリーブや栗、ヤマモモなどの果樹は複数の株に花がなければ受粉ができません。一方でジューンベリーは一株でも実が生り、気温の変動にも強いことから、栽培し易い品種であるようです。

ショウジョウバカマ

地べたの上、放射形に開くロゼッタの葉。中心からすっと伸びる茎の先には、薄紫のユリに似た花が咲いています。スギ林に顔を出したショウジョウバカマです。
地表を覆う葉と大輪の花はどちらも存在感があり、一見すると園芸種のようにも思えますが、れっきとした山野草です。標高間の環境変化に強く、平野部から山間部まで幅広い生息域を誇ります。六甲山では類似種に白い花を咲かせるシロバナショウジョウバカマがあり、葉の形状で区別できます。
その特徴的な姿は名づけの由来ともなったらしく、花をお酒好きで赤ら顔の妖怪・猩々(しょうじょう)、放射状の葉を袴に喩えた、といういわれがあります。ショウジョウバカマの花は薄紅色を示すものもあり、そこから着想が得られたのかもしれません。
六甲山の本種は写真のような青いお顔のものばかり。ちょっと痛飲気味のようです。

タチツボスミレ

暖かな春の陽が注ぐ草地や林の縁に目を向けると、10円玉サイズの紫色の花が見つかります。春季の六甲山をさりげなく彩るスミレの花は、地表に光が届いているかどうかの指標でもあります。
今回ご紹介するスミレはタチツボスミレ。六甲山ではよく見かける種で、4月中旬から5月の中ごろまで花を咲かせます。
六甲山に生息するスミレは20種類以上あり、葉の形や付き方から花の立ち上がり、果ては香りの有無まで様々な見分け方が求められ、なかなか手ごわい存在です。

ナガバモミジイチゴ

ナガバモミジイチゴの花。茎から葉までカギ状のトゲが生えたパンクな姿で、ヤブの濃い林を歩いているとしばしば絡みついてくる厄介な存在です。
しかしながら春季に真っ白な五片の花が等間隔に咲く姿はなかなか美しく、さらに初夏になるとオレンジ色に輝くおいしい実を付けるとなれば、トゲのことなどすっかり忘れてしまうもの。六甲山に自生する木いちごの中でも上位の美味しさで、花を見かけるとつい場所を覚えてしまいます。
昨年ご紹介したものは敷地外に生えていた株でしたが、DOKIの中にもいくつか自生している株を発見しましたので、大事に育てていきたいと思います。

ハクサンハタザオ

アブラナ科の山野草といえば、このハタザオ。六甲山ではハクサンハタザオという種が日当たりのよい草地などでよく見られます。
すくっと伸びて頂点に良く目立つ白い花を付ける姿が、旗竿という名の語源であるようです。ハクサンという語は石川県と岐阜県にまたがる白山で発見されたことに由来し、高山植物の仲間には白山を名に冠する種が多数存在しています。
また、同種は地中の重金属分を好んで養分とする特異な性質を持っており、山師が群生するハクサンハタザオを目印に鉱脈を探した、というお話も残っています。ヘビノネゴザというシダ植物も同様の性質を持っており、こちらには「カナヤマシダ」という別名があります。

ヒサカキ

ヒサカキの花。蝋細工のような質感の花弁からは、むっと息が詰まるようなヒサカキ特有の強い香りが漂っていました。
枝葉を燃やした灰にはアルミナ、酸化アルミニウムが多く含まれており、同様の性質はツバキやサワフタギなどにも見られます。灰汁柴(あくしば)と総称されるこれらの木は、昔から染色の媒染材として利用されてきました。アルミナは特に明るい黄色や、ビビッドな赤、紫色を引き出す際に使用されています。また、実からは青みがかった灰色が得られ、なかなか多彩な樹であるようです。
煎った葉はお茶として飲むこともでき、独特の香ばしさで愛飲されている方も多いそう。その香りから疎まれがちな本種ですが、様々な利用法を調べていくと、また違った顔が見えてきます。

フキ

フキノトウが立ちきってしばらく、40センチほどに生長した茎の先に、なにやらモケモケとした物体が生っていました。
どこか妖精的な雰囲気の綿毛が観察できる一方で、全体の姿は巨大なタンポポというか、キク科らしい繁殖形態を示しています。早春の小さなつぼみから、あっという間の変身劇に、蓄えられた生物の力がいっきに放出されているような印象を受けます。
江戸時代に貝原益軒が著した栽培記録書「菜譜」には「款冬」の字で紹介されており、生で刻んで味噌和え、塩漬けみそ漬けも味がよしと、太鼓判の評価です。同節では似た植物としてツワブキも挙げられ、こちらは生薬としての利用法が取り上げられています。

ミツマタ

3月下旬、ミツマタの蕾が開き始めたころの写真です。モフモフとしたビロード状の花芽が緩み、穂先に小さな黄色の花が開いています。
咲ききると半球状の姿になり、ジンチョウゲの仲間らしい柔らかな香りを放ちます。観賞用の栽培に加えて、和紙の原料としても栽培されています。
日本へやってきたのは室町時代以降と考えられており、奈良時代から紙の原料として使われていたコウゾやガンピと比べると、なかなかの新顔と言えます。和紙原料として一般化したのは江戸時代に入ってからで、現在も紙幣製造の原料として利用されています。

 

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